カルティエの原価は?公開されない理由と価格に隠された真実

カルティエの原価は?公開されない理由と価格に隠された真実

こんにちは、「The Grand Carat」運営者のオーラムです。

カルティエのジュエリーを前にしたとき、その輝きに魅了されると同時に、「この美しいジュエリーの原価は一体いくらなんだろう?」と疑問に思ったことはありませんか?

カルティエの製品はなぜ高いのか、その価格に見合う価値があるのか。特に人気のラブブレスの原価や、指輪の原価、あるいはトリニティリングの原価について、つい知りたくなってしまいますよね。もしかしたら、個人で原価の計算ができないか、なんて考える方もいるかもしれません。

時計やネックレスも含め、カルティEの原価率はどうなっているのか、その秘密に迫りたいという気持ちは、私もよくわかります。ですが、残念ながらカルティエ(や他の多くのハイブランド)は、製品の原価を公表していません。

この記事では、公表されていない「原価」そのものを追求するのではなく、なぜ価格が非公開なのか、そして私たちが目にしている価格がどのような要素で成り立っているのかを、一緒に考えていきたいと思います。

この記事でわかること
  • カルティエが原価を公開しない本当の理由
  • 製品価格を構成する「素材」以外の要素
  • 「ラブブレス」を例にした素材価値の考え方
  • 価格の裏にあるブランドの価値と戦略
目次

カルティエの原価はなぜ非公開なのか

カルティエの原価はなぜ非公開なのか

まず大前提として、カルティエが製品の原価を公開していない理由について掘り下げてみます。これは単に「秘密主義」というわけではなく、ラグジュリーブランドとしての戦略的な理由が深く関わっている、と私は考えています。私たちが手に取る製品は、単なる「モノ」ではなく、一つの「作品」であり「体験」でもあるからですね。

なぜ高い?公表されない価格の秘密

カルティエのジュエリーが「高い」と感じる背景には、私たちが支払う価格と、製品に使われている「素材(金やダイヤモンド)」の価格との間に大きなギャップがあるように感じるからかもしれません。

ですが、ラグジュリーブランドの価格は、素材の価値だけで決まっているわけではないんですね。

もし原価が公表されてしまったら、どうなるでしょうか。例えば「この指輪の素材原価は販売価格の20%です」と分かったら、「残りの80%はブランド料か」と、多くの人が製品の「価格」だけを見てしまい、その背後にある「価値」を感じにくくなるかもしれません。

そうなると、カルティエのジュエリーは「金の塊」や「炭素の結晶」と変わらない、「コモディティ(日用品)」として比較されることになってしまいます。これこそが、ラグジュリーブランドが最も避けたい事態かなと思います。

カルティエが守っているのは、原価という数字そのものではなく、「カルティエ」というブランドが持つ夢や憧れ、そして「王の宝石商、宝石商の王」と呼ばれるほどの長い歴史に裏打ちされた信頼性なんだと思います。原価を公表しないことこそが、そのブランドの「神話性」を守るための重要な戦略の一つなんですね。

財務データから見る原価率のヒント

財務データから見る原価率のヒント

とはいえ、ヒントが全くないわけではありません。

カルティエ単体の財務データは公開されていませんが、カルティエを傘下に持つ親会社「リシュモン(Richemont)」グループの財務報告書(アニュアルレポートなど)を見ることで、おおよその「売上原価率」を推測することはできます。

(出典:Richemont Results, reports & presentations

ここで、少し会計的な話になりますが、価格を理解する上で重要な2つのコストがあります。

売上原価(COGS)とは

「売上原価(Cost of Goods Sold)」とは、製品を作るために「直接」かかった費用のことです。ジュエリーで言えば、地金(金やプラチナ)の仕入れ費、ダイヤモンドや宝石の仕入れ費、工房の運営費、職人さんの人件費、そしてあの立派なケースや箱の費用などが含まれます。

リシュモンのデータ(参考):リシュモングループの近年のレポート(FY2024やFY2025)を見ると、グループ全体の「売上原価率」は約32%〜33%あたりを推移していることが多いようです。つまり、売上の約67%〜68%が「粗利益(Gross Profit)」となります。

ただし、これはあくまでリシュモングループ全体の平均値。グループにはカルティエ以外にも多くの時計ブランドやファッションブランドが含まれています。

カルティエが属する「ジュエリーメゾン」部門は、グループ内でも特に利益率が高い(FY2024で営業利益率33.1%)とされています。そのため、カルティE製品の粗利益率は、グループ平均よりもさらに高い(=売上原価率は低い)可能性も考えられますね。

販管費(SG&A)という「第二の原価」

重要なのはここからです。粗利益(約67%)から、さらに莫大な費用が差し引かれます。それが「販売費及び一般管理費(SG&A)」です。

これは、製品が完成した「後」に、それを顧客に届けてブランド価値を維持するためにかかる、ありとあらゆるコストです。

  • ブティック運営費: パリ、ロンドン、ニューヨーク、銀座など、世界中の一等地にある「神殿」のようなブティックの莫大な家賃、豪華な内装費、光熱費、厳重なセキュリティ費用。
  • 広告宣伝費: 世界的なセレブリティを起用した華やかなキャンペーン費用、雑誌広告、SNSマーケティング費用。
  • 人件費: 高度な訓練を受け、最高水準のサービスを提供する販売スタッフの給与や教育費。
  • 研究開発費(R&D): 新しいデザインや、時計の新しいムーブメントを開発するための費用。

リシュモンの財務データから推定すると、この「販管費(SG&A)」が売上の約35%〜37%を占めている可能性があります。

つまり、私たちが支払う価格の約3分の1が「売上原価」、もう3分の1が「販管費(ブランド価値創出コスト)」、そして残りの3分の1が「営業利益」というのが、カルティエのようなトップブランドの利益構造の目安と言えるかもしれません。

高騰する素材(金)価格の影響

高騰する素材(金)価格の影響

忘れてはならないのが、素材価格の変動です。

特にここ数年、ジュエリーの主原料である「金(ゴールド)」の価格は、世界的な経済不安やインフレの影響を受けて、歴史的な水準で高騰を続けています。これはもちろん、製品の原価(売上原価)を直接押し上げる大きな要因です。

実際に、カルティエをはじめ多くのハイブランドが、素材価格の高騰を理由の一つとして、年に1〜2回、定期的に製品価格の改定(値上げ)を行っていますよね。

定期的な価格改定の裏側

ブランド側としては、素材が高騰しても、ブランドイメージを維持するために必要な利益率(マージン)は確保しなければなりません。 そのため、素材が上がった分以上に、小売価格が上昇しているように見えるケースもあるかもしれません。

これは、前述の「販管費」もインフレ(家賃や人件費の高騰)の影響を受けるため、それらも価格に転嫁する必要があるからです。

こうした状況でも値上げを断行し、かつ顧客が離れない(むしろ需要が高まる)こと。それこそが、カルティエが持つ強力な「価格決定力(Pricing Power)」の証左なんですね。

個人で原価の計算は可能か

個人で原価の計算は可能か

「それなら、自分で計算できないか?」と考える方もいるかと思います。

例えば、指輪やブレスレットの「重さ」と「素材(K18など)」が分かれば、その日の金の市場価格から、おおよその「地金(じがね)代」だけを算出することは可能です。

ですが、それは「原価」のごく一部でしかありません。

計算できるのは「地金代」だけ個人での計算は、あくまで「その製品に使われている地金(金)が、素材としていくらか」という計算に過ぎません。そこには以下のようなコストが一切含まれていない点に注意が必要です。

  • 宝石の価値: ダイヤモンドや宝石の価格。カルティエはGIA基準の4Cに加え、さらに独自の厳しい基準で選定しており、そのコストは計り知れません。
  • デザイン費・開発費: 一つのデザインが生まれるまでの研究開発(R&D)費、試作費。
  • 高度な職人技術(クラフツマンシップ): デザインを形にするための金型製作、精密な鋳造、何時間にもわたる研磨(ポリッシング)、宝石のセッティング技術料。
  • 製造過程でのロス: 製造過程で削られたり磨かれたりして失われる地金の分(「目減り」分)。
  • その他: 前述のケース・箱代、輸入関税、消費税など。

そのため、個人で計算した「素材費」と「販売価格」を比べて、「こんなに差がある!」と考えるのは、リンゴとミカンを比べるようなもので、あまり意味がないかなと私は思います。

ラブブレスの素材価値を試算

ラブブレスの素材価値を試算

とはいえ、参考までに「もし素材だけだったらいくら?」を考えてみるのは興味深いですよね。

(※注意:以下の計算は、公表されていない推定の重量と、変動する市場価格に基づく、あくまで仮の試算です。正確なものでは決してありません。参考程度にご覧ください。)

【仮の試算】ラブブレス(K18 YG)の素材価値

  1. 重量(推定): サイズ17で約34g程度とされています。(非公式・中古市場データ参考)
  2. K18の価格: 金のスポット価格が1グラムあたり13,000円(K24/純金)だったと仮定します。K18(75%が金)の地金価格は $13,000 \times 0.75 = 9,750$円/g となります。
  3. 素材価値の計算: 34g $\times$ 9,750円/g = 331,500円

(2025年11月時点の米国定価 $7,950$ を当時の為替(仮に1ドル169円)で日本円に換算すると、約134万円以上になります)

この試算(あくまで仮です)で見ても、販売価格と素材価値には大きな差があることがわかります。この差額こそが、デザイン、技術、ブランドの歴史、そして「ラブブレスを所有する」という体験の価値なんですね。

この約100万円以上の「ギャップ」に、先ほどの売上原価(職人技術など)の残り、莫大な販管費(広告費、店舗費)、そしてブランドの利益がすべて含まれている、と考えると分かりやすいかもしれません。

製品別に見るカルティエの原価と価値

原価は非公開ですが、製品のカテゴリーによって「価値」の構成要素は少しずつ異なるはずです。同じ100万円の製品でも、それがソリテールリング(一粒ダイヤの指輪)なのか、時計なのかで、コストの内訳は大きく変わってきます。ここでは、指輪、ネックレス、時計といった製品別に、その価格が何を反映しているのかを考えてみたいと思います。

カルティエの指輪の価値とは

カルティエの指輪、特にエンゲージリング(婚約指輪)やマリッジリング(結婚指輪)は、単なる装飾品以上の意味を持ちます。

もちろん、使用されるダイヤモンドの品質(4C)は価格に直結します。カルティエはGIA(米国宝石学会)の基準の中でもトップクラスのものしか扱わず、さらに「カルティエ基準」という独自の美しさの基準(輝きや対称性など)で厳しく選定しています。その素材価値自体が高いのは間違いありません。

しかし、私たちがカルティエの指輪を選ぶ理由はそれだけでしょうか?

「一生もの」の証として、カルティエというブランドが持つ「永遠性」や「信頼性」にお金を払っている、という側面が強いと私は思います。

購入後のクリーニングサービスやサイズ直しといった手厚いアフターケアの安心感。そして何より、「あのカルティエのレッドボックスでプロポーズされたい」という憧れ。それこそが、素材原価では計れない「価値」の源泉ですよね。

トリニティリングの価格構成

トリニティリングの価格構成

3つのリングが絡み合う「トリニティ」は、カルティエのデザイン力を象徴する作品の一つです。

トリニティの原価を考えるとき、もちろん3色のゴールド(イエロー、ホワイト、ピンク)の素材費は含まれます。ですが、それ以上に重要なのは、あの滑らかで美しいフォルムを実現するための「製造技術」と「デザインの独創性」ではないでしょうか。

1924年に誕生してから100年以上にわたり愛され続ける普遍的なデザイン。このデザインの「発明」と、それを完璧な製品に仕上げる職人技(3本のリングが寸分の狂いなく滑らかに動くための精密な設計と研磨)こそが、価格の大部分を占めているはずです。

「トリニティ」という一つの完成された「作品」のヘリテージ(遺産)を所有する。その対価を支払っている、と考えるのがしっくりきますね。

ネックレスを支えるブランド価値

ネックレスも、デザインの多様性が価格に大きく影響します。

例えば「ディアマン レジェ」のような一粒ダイヤモンドのシンプルなネックレスと、「ジュスト アン クル」のような釘をモチーフにした大胆なネックレスでは、原価の考え方も変わってきそうです。

シンプルなデザインほど、ダイヤモンドの質と、ブランドのロゴ(刻印)の力が際立ちます。「C ドゥ カルティエ」やロゴがデザインされたアイテムは、まさにブランドのアイコンを身につける、というステータスシンボルとしての価値が価格に反映されていますね。

一方で「ジュスト アン クル(ただの釘)」や「パンテール(豹)」のように、日常的なモチーフや動物を、誰もが息をのむような高級ジュエリーに昇華させる「デザインの力」と「それを実現するサヴォアフェール(職人技)」。これこそがカルティエの真骨頂であり、価格の大きな部分を占めていると思います。

時計(ウォッチ)の原価と技術料

時計(ウォッチ)の原価と技術料

カルティエは、世界で初めて本格的な男性用腕時計「サントス」を作ったブランドでもあり、時計(ウォッチ)の分野でも一流です。

時計の原価は、ジュエリーとは少し異なります。

ジュエリーとのコスト構造の違い

ジュエリーが「素材+デザイン+ブランド価値」の側面が強いとすれば、時計はそれに加えて「精密機械としての技術料」という、専門的な「原価」が大きく上乗せされます。

時計の価格に含まれる要素

  • ムーブメント(内部の機械): 時計の心臓部です。自社で開発・製造した高性能ムーブメントか、あるいは信頼性の高い汎用ムーブメントか。トゥールビヨンのような複雑な機構(コンプリケーション)になれば、その開発費と製造コストは莫大になります。
  • ケースやブレスレットの素材: ステンレススチール、ゴールド、プラチナ、あるいはセラミックなど。もちろんゴールドやプラチナを使えば素材原価は上がります。
  • 技術料と組み立てコスト: ミクロン単位の精密な部品を、熟練の時計師が手作業で組み立てるコスト。そして厳格な品質検査(防水性、精度など)のコストです。
  • デザインと歴史: 「サントス」「タンク」「パシャ」といった、100年近い歴史を持つアイコンデザインの価値。

特に自社製ムーブメントの開発には、何年もの歳月と巨額の投資が必要です。そのコストが製品価格に反映されるため、同じような見た目でも、搭載するムーブメントによって価格が大きく変わってくるんですね。

カルティエの原価は価値の総体

ここまで見てきたように、カルティエの「原価」について考えることは、私たちが製品の「価格」の裏にある、多様な「価値」に気づくことにつながります。

カルティエの原価は、単なる「素材費」ではありません。

それは、何十年、何百年とかけて築き上げてきたブランドの「歴史」と「信頼」、他にはない「デザイン」を生み出す創造力、それを形にする「職人技術」、そして私たちがブティックで体験する「特別な時間」……そういった目に見えない価値の全てを合計したもの、と考えるのが自然かなと思います。

私たちがカルティエの製品を手にするとき、その「価格」には、これら全ての価値が含まれている。そう思うと、手元のジュエリーが一層輝いて見えてくるかもしれませんね。

免責事項この記事で紹介した「売上原価率」や「ラブブレスの試算」に関する数値は、公開されている財務データや非公式な情報に基づいた、あくまで一般的な推測や一例です。ブランドが公式に発表したものではなく、その正確性を保証するものではありません。

製品の価格や仕様に関する最新かつ正確な情報については、必ずカルティエの公式サイトにてご確認いただくか、直接ブティックにお問い合わせください。

目次